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「カ…カラ……?」
「…き、聞きたく、ない。
聞きたく…ないんです…!!
そんな言葉言わないで下さい!!
知らない…ですから…!
聞こえてない…!!」
─嫌だ、絶対に嫌だ。
単純にそんな思いが頭を占めていました。
聞いていない、聞こえていない。
僕は何も知らないんだって、ただひたすらに信じようと意識を集中させていました。
子供じみたやり方だって言われたって構わない、これでヨシキに愛想をつかされたって、嫌だけど…それでもそれ以上に嫌だ。
「絶対に…嫌だ…っ!!」
声を荒らげた時、勢い余って起こした体を縮まらせて、右手でベッドのシーツを強く掴んで、左手ではヨシキの手を離そうとしませんでした。
あぁ、でも…不思議なんです。
痛覚に鈍くなって温度すらちゃんと理解のできなくなった僕の体で、心臓のある左胸だけが鈍く痛い。
「……カラ…?」
「…っ、うっ……!」
シーツを掴んでいた右手を離して、その手で左胸を強く押さえた、掴んだ。
─痛くて痛くて、痛くて、ただ、本当に痛くて痛くて堪らない、痛い痛くて、まだ残っていた頬をつたう雨粒を止められない。
「…い、たい…っ……」
こんなにも、痛いものがあるんだ。
こんなにも、痛いことがあるんだ。
痛みを紛らわすように強く目を瞑った。
そうでなくても、こんなに滲んだ視界じゃ何にもヨシキのことも見ることはできやしなかった。
あぁ、もう、嫌になったかな。
こんなんじゃ…嫌いになったかな。
─そう思って諦めて、目を開いてみた僕の視界はすぐに何も見えなくなった。
「……え…っ……?」
どうしてだろう…温かい。
体を起こしているのが急に楽になった。
…あれ?なんで?
そう考えても分からない僕の頭を、落ち着かせるようにポンポンとなでてくれるのは…ヨシキ以外にいないのに、その安心感が確かにありました。
背中を支えてくれているのは誰?
この左手を離さずに掴んでくれているのは…?
「……ヨシ、キ……?」
僕はヨシキに、あやすように優しく抱き締められていることを、時間をかけてやっと理解しました。
「…え……なん、で……」
「……はぁ。
カラいわく『お母さん』の俺が、カラに1つ教えてやらないといけないな。
人の話は、最後まで聞こうな?」
ヨシキの優しい声が耳に響いた。
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