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伝説の舞台
外木場に案内されてやってきたのは、大学に程近いコンビニだった。
「ここです」
「お前、良く知ってるな」
「俺、意外とコンビニに顔が利くんですよ」
有りそうで無さそうだな、そのセリフ。
レジには背の高いボブカットの良く似合う女性店員が立っていた。
俺達の入店に合わせて、いらっしゃいませと元気よく声をかけてくれる。わざわざこっちに向けて笑顔を見せてくれるあたり、思わずドキリとしてしまう。
「……へえ、できるな」
ぼそっと背後で外木場が呟いた。
「ん?」
「いえ、何でも」
漠然と嫌な予感がする。
雑誌を読みながら待つこと十五分。
その間に外木場が教えてくれた。
彼女が溝呂木順平が目当てにしている女の子らしい。
「名前は野間夕見子」
「何で知ってんの? 親戚?」
「違います。まあ、注目のルーキーらしいんで」
注目? ルーキー? さっきから何を言っているんだ、こいつは。
その時、目当ての巨漢がのしのしと入店してきた。
「来ましたね」
「ああ」
彼は俺達に気付いていない。というか、入って来るなりレジの方を向いてニタニタしている。実に気持ち悪い。雑誌を立ち読むふりを続けつつ、溝呂木順平の様子を監視する。彼はオレンジ色のカゴにひょいひょいと迷いなく商品を放り込んでいく。
「随分買うな。千円ぐらい行くんじゃないか?」
貧乏大学生の分際でえらい贅沢するものだ。千円あれば、一日の食費にしてお釣りがくるレベル。千円札を人生の助けとして崇め奉る千円教の皆さんに怒られろ。
「金額もそうですが……」
外木場は何故か思案顔。コンビニに来て以来、彼がちょっと気持ち悪い。
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