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伝説の始まり
「これは極秘中の極秘って奴なんですけどね」
そう言う始まりで後輩の外木場が語ったところに寄ると、同期の溝呂木順平が恋をしたらしい。
相手はコンビニの店員だとか。ベタだな。ベタ過ぎてがっかりした。
我々陰系のクズ大学生にとって、女性との触れ合いはダイヤモンドに等しい貴重品だ。それ故に些細な事で恋に落ちてしまう可能性というのは非常に高い。その中でもヤバいのがコンビニ店員だ。無差別爆撃のごとく万人に等しく向けられる笑顔を、己だけへの集中砲火と勘違いして爆死する連中を俺は何人も見てきた。
三次元人に対しては強者と思われてきた順平も、所詮はただの男だったというわけだ。
「毎日ニコニコしながらコンビニに通っているらしいです」
外木場はそう言ってにやりと笑った。
「ニタニタの間違いだろ。金もない癖に」
恋は盲目とは言うけれど、端から見ていると実に愚かしい。
「で、それを見に行きませんかというお誘いです」
「……お前は本当に悪趣味だね」
「お嫌いですか?」
「大好きに決まっている。四十秒で支度するから待ってろ」
「へーい」
こうして、にわかに結成された悪趣味連合は、溝呂木順平の不様な姿を眺めるためだけにコンビニへ向かったのであった。
この先に何が待ち受けているか、俺は全く知らなかったんだ、この時。
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