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「ごめん」
俯いたまま、そう何度か謝ってくる彼が、とても弱くて愛しい存在に思えた。守られるのはあんまり好きじゃないっていうか、不慣れなんだろうなって感じはするけど、一回でいいからちゃんと抱きしめてあげたいって感じがする。
髪に触れる感触があった。ふと上を向く。頬や鼻先に、ぽつぽつと同様に触れる感触。雨だ。
「あ、やべ、降ってきた!」
田んぼしかない一本道は、駅まで行かないと雨宿りすることもできない。街路樹なんて雨宿りできるほど頼りがいのあるものでもない。駅までやっと折り返しくらいの道のりだ。
「ちょ、走ろう!」
雨音はすさまじく、灰色のアスファルトを一気に真っ黒く染めた。
お互いフードついてる服で良かった。かぶって小走りに駅に向かう。
ただ、すさまじい雨音は雷を伴って想像以上に強い降りを見せ、駅に着くまでの間にフードなんかでカバーしきれないほど体を濡らしていく。
無理矢理手をつないで走るけど、雨に降られながら走ると、息をするのもやっとというくらい慌ただしい降り方をしている。
上着が雨を含んで重くなってきた。水の中に突っ込んで、そのまま着たみたいな重さ。
(今日雨予報だったっけ?)
普段大して気にしない天気予報を必死で思い返す。それにしたって酷い雨だった。彼の足がもたついてくる。これ以上走り続けるのは無理かもしれない。
どうしよう、今日一番のピンチはさっきかと思ったのに、今かよ!
田んぼコーナーを駆け抜けると、頭の中にぽんと思い浮かんだのは、あの時飲み屋街に連れ込まれたときのことだった。
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