518人が本棚に入れています
本棚に追加
「ちょっとこっち来て!」
急に方向を変えて、交差点を渡って左に走る。足がもつれかかる彼を振り回すように、必死で手をつかんで走った。ちょっと申し訳なく思いながら、この雨から逃れるためにはやむを得ないと自分に言い聞かせる。彼にはあとでたっぷり謝ろう。
交差点を左に曲がってすぐのところにある細い道をたどっていくと、飲み屋街がある。昼間だったら絶対に近づかない、独特の雰囲気の漂う生臭いあの場所。
そこを通り抜ける。
必死で走ってきて、やっと立ち止まった頃にはすっかり雨はやんでいたけれど、二人して濡れ鼠になっていた。大した荷物も入ってないカバンも、中に染み込むくらいびしょ濡れ。
「ごめん急に、大丈夫だった?」
やっと声をかける。彼もずぶ濡れで、肩で息をしている状態。
「だいじょぶ、じゃ、ない」
なんとなくそうかなぁと思っていたけど、やっぱり体力ない方なのかも。
「ちょっと休もう、このままじゃ店にも入れないし」
そのまま手を引っ張る。けれど、彼の足は動かない。
「ちょっと待って、ここ」
「あ?」
「ここって」
「?」
「ラブホ、だろ、だって」
雨をどうしのぐかしか頭になった俺は、そこをどういう場所でどうしようとか全然考えていなかった。そう、ここはラブホ街。どこかに入って一旦落ち着いた方がいいかと思っただけなんだけど。
嘘だと思われるかもしれないけど、本当にやましい気持ちなく!ただ雨宿りと濡れっぱなしの服と体を何とかしようと思っただけで!
なんて弁解しようとしても、ただでさえ微妙な関係なのに言い逃れするには苦しいかなー!
最初のコメントを投稿しよう!