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「今は濡れてるの何とかするのが先だろ。今のままじゃ店どころか電車にも乗れないじゃん」
でもそういうつもりがないことは事実だし、どういうつもりでここにいるのかはっきりと言っておかないと。女の子と来るよりも勘違いされたくなくて、一気に緊張する。
彼は黙ったままそこに立ち尽くしていたけれど、また一つ二つ雨が落ちてきたのを機に中に入った。
一番安い部屋は埋まっていた。その次に安い部屋も埋まっていて、結局一番高い部屋しか空いていない。
(あー、さよなら俺のバイト代……)
もちろん、思っただけで口には出さない。あの時彼女に無理やり連れてこられたときとはわけが違う。好きな人と初めて一緒にラブホ入るんだ、大奮発ってことで。
せっかく来たんだから、カッコよくエスコートしたい。
「来て」
また手を引っ張って、目的の部屋までどんどん進んでいく。
彼の足取りは、雨に打たれていたとき以上にもつれていた。
思えば、彼はこういう場所に来たことがあるんだろうか。彼女いたことあるって言ってたし、一回くらいはあるのかな。考えるとちょっとモヤモヤするから、敢えて考えるのはやめようと思いなおす。
一番高い部屋は最上階にあった。黒とピンク色で配色された、いやらしいのかオシャレなのかわからない廊下の奥が目的地。らしい。
「うわすげぇ、ドアの作りから違うじゃん」
黒いドアの縁に、細かい装飾がしてある。同じように装飾のされているドアノブを捻ると、玄関から部屋の中まで同じような配色が続いている。
「うぉぉすげぇ~広いし!」
リビングとベッドルームがきちんとひと部屋ずつあって、風呂なんか普通のバスルームとシャワーブースの両方とも用意されている。テレビもかなりデカいし!ただ部屋の全体が結構薄暗いけど。
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