43人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
序
子供の時分より、俺にはおかしなモノが見えた。
それは手足の生えた茶碗だったり、天井から生える目玉だったり、無色半透明の人型だったり、いわゆる幽霊や妖怪といったものだと、俺は考えている。
時には、病や恨みと言ったものも、はっきりとしないが、何らかのもやや影のようなものとして俺の目に映ることがある。
自分以外の他人には見えていないことは、幼い頃からなんとなく気づいていた。
イイ子でいるためには、見えない振りをすることだ。
俺は見るも恐ろしいそれらについて、口を閉ざした。
俺がまだ分別つかずに、30センチくらいの小人と遊んでいた時の、母の目が忘れられない。
「何が見えているの」
と母は俺に問うた。
「なんにも」
咄嗟に嘘をついた。
ただの子供のごっこ遊びとはきっと違って見えたのだろう。
尋常ならざる母の心配を一身に浴びて、俺は嘘を吐くことを覚えた。
他人には見えていないモノは、なんとなく違和感がある。
その違和感で。俺はモノを見分けていた。
今では間違うことなく分別できる。
そうでなかった頃は、周囲の大人をぞっとさせる子供だったらしい。
今となっては、母には「あなた、子供の頃霊感が強かったのよ」なんて茶化される。
今も見えていると知ったら、きっと心配かけるだろうと思う。
スポーツは好きで、活発な一面がある一方、見えているものの違いから、他人との間に壁を作りがちで、友達と呼べる人の数は多くなかった。
いつか、同じモノを見て、理解してくれる人間が現れたら、本当の友達になれるのだろうか。
それとも、そんな人間はいなくて、俺が見ているものは幻で、俺の頭がおかしいだけなんだろうか
最初のコメントを投稿しよう!