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正面から見る彼女の顔があのときと重ね写しのように寂しげに歪み、俺は抵抗する気力も失っていた。幻覚だと言い聞かせながらも、俺は注がれる視線から顔を背けた。
寝かされる直前に「……どっちが病人だよ」という恨み言だけを吐いたが、「体調が悪い方が看病される側なのよ」と即座に返された。俺は観念して軽くため息をついた。
「私のことはいいから。少し、休んで」
若干の後ろめたさを感じながらも、俺は目蓋を閉じる。
彼女は喋らなかった。だが気配から側でじっと俺を気にかけてくれているのが分かった。
いつもと逆の立場。寝ているのは俺で、側で付いているのは彼女。寝ていた彼女は今の俺と同じような気持ちだったのだろうか。
そうして静かに横たわっていると不思議と心地よいまどろみがやってきた。きしむような胸の痛みもすっかり消えていた。彼女がいつも眠そうにしているのはこのベッドの不可思議な力のせいかもしれない、と霞がかっていく思考で考えた。
「ねぇハル」
おぼろげに残る意識のなかで右手に触れる感触に気がついた。布団に被さっていた右手を包み込むようにして彼女が手を伸ばしてきている。
俺は薄目を開けて彼女の方向に振り向く。
視線に気付いた彼女は、俺に向けて穏やかに微笑した。
「私、あなたを信じてるからね」
柔らかな笑顔とともに投げかけられた言葉は、刃物のように胸をえぐった――。
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