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贖いの言葉を
横たわる寝顔は緩みきっており、瞼は柔らに閉じている。夕刻に差し掛かった陽光が窓辺から差し込み、頬の輪郭をぼかす。茶色がかった黒髪が艶やかに光沢を放っていた。側に置かれているぬいぐるみがお守りのように枕元で寝そべっている。
俺は黙ってその姿を眺めている。
自分より年下の彼女はベッドで横たわり、規則正しく寝息を立てている。病室内の無機質な白さに、潔白さを感じるよりも生理的嫌悪の方が先に立つのはなぜだろうか。均一なものが並んでいるとき、どこか気が遠くなるような気持ちを味わうことがある。その感覚と似ているかもしれない。
横たわる彼女の扱いは入院患者となっている。チューブや点滴のたぐいは取り付けられていない。健康状態は健常者のそれとあまり変わることがないように見える。いくらかの身体の傷ももうしばらく経てば癒えることだろう。そう、身体の傷は。
そう余計なことを考えていたとき、目の前の布団の膨らみが小さく上下し、うめいているのを認めた。俺が側で見ていることに気がついたのか、恨み言を吐くように声を絞り出した。
「……おはよぉ」
「よぉ」
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