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昼寝から目覚めた彼女はぼんやりとした表情で被さっていた布団を跳ね除ける。勢い起き上がったものの未だ夢うつつといった調子だ。
その眠たげな眼の背後、後頭部に縫われた傷があることを俺は知っている。その後頭部への強い衝撃による短期的な記憶障害。それが彼女がこの病室にいるもう一つの理由だった。
彼女は俺のまじまじとした視線を受け止め、唇を尖らせる。
「レディの寝顔をずっと観察するってどうなの? 普通失礼だと思うでしょ」
「だったらレディらしく振る舞ってみせろ」
「えーー」
旗色が悪くなったのか、再び布団の中に逃げ込もうとする彼女の布団を引っぺがす。俺は呆れながら、
「夕食食ってから寝ろよ」
「病院食、まずい。たまにはラーメンが食べたい」
布団をバタバタと叩きながら彼女は不服を訴える。
「ぜーたくいうな」
「インスタントでいいから!」
「安いな! まぁ買ってやらねぇけど」
「けち! 冷血漢! 怒りんぼ! いばりんぼでけちんぼ!」
「へーへー」
非難というには幼い気がする言葉を聞き流して俺は席を立つ。
「帰るの?」
見上げた視線は一抹の寂しさが含まれているようだった。すこし後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、俺は気にしない風を装う。
「あぁ、また来週にでも来る」
「……うん、分かった」
「じゃあな」
去り際に左手を軽く挙げて歩きだす。
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