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「遅い」
「悪い」
彼女の態度は一見して分かるくらいに斜めに曲がっていた。俺の顔を見ようとせず、布団を被ったまま出てこなかった。
ここで弁明を試みることもできたが、昔から彼女はそんなことを好まなかったはずだ。むしろ、喋るたびに自分が袋小路にはまっていくのは間違いなかった。
「悪かったって。急用があったんだ」
「誠意が感じられない」
彼女はにべもない返事をする。
「駅前の店でケーキ買ってきたんだけどな」
そう俺が誘ってみると「本当!?」と目を輝かせて振り返った。俺がその顔を眺めていると何かに気づいたような表情になり、再びそっぽを向いた。
「まぁ、そういうことなら許してあげなくも、ないわよ」
「現金な奴」
「う、うるさい!」
ベッドの上から飛び起きようとしていたのを俺は頭をつかんで取り押さえる。手の中で彼女のうめき声が聞こえてきた。
沸き立った想像から目を背けるように、俺は声を上げて笑った。
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