贖いの言葉を

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 夕方になると彼女がうとうととし始めた。どうもこの時間になると眠くなってくるらしい。三十分くらいしたら起こして、という台詞を吐いて布団の中に引っ込んでいく。  平穏でゆっくりとした時間。その静謐さは偽りのものだと分かっていながら、今になっても手放すことができなかった。  布団から覗かせるようにして見える彼女の瞼は優しく閉じられている。伸びた前髪がその上に覆い被さっていたのを見かけ、俺は前髪を払おうと手を伸ばす。 『ハルに撫でられると、ちょっと怖くなるときがあるんだ』  以前、暗闇の中で告げられた声がフラッシュバックのように脳内で瞬いた。伸ばした腕が硬直するようにしてその場に縫い止められる。手に何かがこびりついているような感覚が拭えず、手のひらを何度も握って感触を確認した。  脳裏には自分の意志と関係なく声が聞こえてくる。『彼女』の、声が。 『ねぇ、ユウキ、私を……売るの?』  月明かりに照らされながら寂しげに微笑する彼女――『小春(コハル)』はかすれた声で告げた。     
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