贖いの言葉を

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 ただ友達の中で仲がよかったというだけだった。売った、などといわれを受ける筋合いはない。そう思いながらも俺は口を開くことが出来なかった。最大の理由は、小春から言われた言葉は俺自身も少なからず感じていたことだったからだ。  自分の葛藤から目を背け、気がつけば俺は右手を突き出していた。  それに気がついた小春は驚いて身を引いた。つかみ掛かろうとした右手は勢い余って彼女の肩口に当たる。  小春の身体はぐらりと傾いていき、倒れかかった先には階段が大口を開けるようにして身を沈めていた。暗闇の中に彼女は取り込まれていき――。  そこまで考えて我に返った。俺は必死にかぶりを振って脳内に浮かんだ映像を打ち消す。あれは事故だ。小春をあんな形で貶めるつもりは最初からなかった。ただ趣味が合い、気兼ねなく話せる仲だった。付き合ってはいなかったし、知り合いに紹介するくらいと軽い気持ちだった。やましい気持ちなどなかったはずだった。だが、取引と称されて握らされた金に目が眩んだ。  そして俺は心の底ではわかっていたのだ。知り合いから告白を受けたとしても彼女はきっと俺のもとにいたままだろうと。俺は知り合いも、小春の気持ちも利用していたのだ。  打ち付けられるような痛みが胸を衝く。俺は拳を握りしめるようにしてそれに耐えていた。俯せた顔から滴った汗が頬を流れ、右腕を伝っていく。     
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