贖いの言葉を

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 ふと、その手にそっと乗せられた感触に気がついて俺は恐る恐る目を開けた。いつ起きたのか、心配そうに覗き込む顔は悲痛に歪んでいる。まるで苦しんでいるのが彼女の側のようにすら思えた。 「ねぇ『ハル』、大丈夫?」  その名前は今の彼女だけが呼ぶ――もっとも大切に思うべき自分の名を取り違えたからこそ生まれた――俺の名前だった。 「なんだか、苦しそうに見えたから。具合悪いの? 先生呼ぼうか?」  その目には涙をたたえて今にもこぼれ落ちそうだった。 「……大丈夫」  それだけを絞り出すと、彼女の包んでいた両手からそっと右手を抜き出す。 「顔色悪いよ? 無理してまで来てくれたの?」 「……いや、ちょっと夢見が悪かっただけだ」  自分が反射的に言った一言に動転する。気が緩んでいたのかもしれない。連想させるようなことは禁じていたからだ。精神的に危害を与えないためと、何より、俺自身のために。  しかし、そんな俺の心配は徒労に終わったようだった。気にかけたふうもなく、彼女は目線でベッドを指す。 「ちょっと横たわったらどう? 私、寝たあとだけど、ほら」  病人である相手に体調を心配されるほど情けないこともない。俺は「今日のところは帰って寝るから」と言い聞かせた。しかし、半ば無理矢理に手を引かれ、寝かしつけられる。     
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