贖いの言葉を

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 週に一、二度彼女を見舞いにこの病院にやってくる。二度訪れれば俺の急な訪問に彼女は喜ぶ。だが、回を増していると慣れに繋がるために思いついたときにしかやらないことにしていた。  無機質な廊下。均一性しかない人工的な建物。今まで機会がなかったが、何度か訪れていて病院に対してそのような感慨を抱いた。  ここにいる人は表情に光が宿らない。病院というのはそんな場所なのかもしれない。寄る辺をなくした者も、家族を待つ者も含まれるが、ここにいる限りそれは一時的な夢想にすぎない。病状が多種多様であれ、ここでは等しく患者として扱われる。数字の一、二と変わらない個人。そして彼女もそれは同じだった。  彼女は親元を離れて一人で暮らしていた。  特殊な事情があるのかと予想して、誰も過去に触れようとはしなかった。周囲の心配をよそに彼女はあらゆることをひとりでこなした。  俺が出会ったのは彼女がまだ高校生の頃だった。境遇を知った俺の家族は実の親のように振る舞っていた。俺もいつか張り詰めた糸が切れるような予感を感じていたため、良く彼女と会って話をした。     
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