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それは、皆が年末年始の忙しさから解放された、冬の朝のことだった。
各々が朝の仕事に向かい、人気のなくなった使用人部屋の一室で、クレアは家政婦のペイジと向き合っていた。
「クレア・タッカー、貴女を本日付けで解雇します」
書面に書かれた一文を読み上げるように、ペイジが淡々と告げる。突然下された通告に、クレアは耳を疑った。
シンプルな黒いデイドレスに身を包んだペイジは、腰の高さで品良く手を組んで、沈痛な面持ちでクレアをみつめていた。
真っ白になった頭の中で、クレアはひたすら解雇の理由を考えた。
思い当たる理由はひとつしかなかった。けれどもそれは、決してクレアが罪を問われるような問題ではないはずだった。
数日前、従僕のジェイクが屋敷内で女性使用人に性的暴行を働いた。クレアはその被害者だったのだ。
幸い未遂で済んだものの、純潔だったクレアにとって、同僚に襲われたという事実だけでも充分に怖ろしいことだった。
それでも翌日には平常どおりに仕事をこなし、今日この日まで、謹慎処分となったジェイクに沙汰が下されるのを待っていたというのに。
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