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「そんな、どうして……この五年間、わたしが誠心誠意尽くしてきたことは、旦那様も奥様も、ペイジさんだってご存知のはずです!」
「勿論、私は貴女を信じています。けれど、奥様のご命令に背くわけにはいかないのです」
「奥様が……わたしを解雇しろと、そう仰ったのですか……?」
淡褐色の瞳が悲しみに揺れ、顔面が蒼白になる。
あまりの理不尽な仕打ちに、クレアは唇を戦慄かせて俯くことしかできなかった。
十五歳で奉公に就いて五年間、クレアは真面目に誠実に、この屋敷の家族に仕えてきた。
すらりと背が高く顔立ちも整ったクレアは、屋敷女中として、ときには客間女中として、たくさんの責任ある仕事を任されてきたのだ。
それなのに、親しくもない男に襲われたというだけで、同情されるどころかふしだらだと蔑まれ、解雇されることになるなんて。
解雇の理由が淫行では、当然紹介状も貰えなかった。
奇しくもその日はクレアの二十歳の誕生日で、荷物をまとめに自室に戻ると、病床の母からお祝いのメッセージカードが届いていた。
その日の夕刻、クレアは悲嘆に暮れたまま長年勤めた屋敷を去った。
ジェイクと夫人が愛人関係にあったことをクレアが風の噂で耳にしたのは、それから半月後のことだった。
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