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ゲイルが案内してくれたのは、職業紹介所の三階にある、通りに面した部屋だった。部屋の中央には椅子が一脚ぽつんと置かれていて、磨りガラスの間仕切りに人の影が映っていた。
面接の経験は何度かあったけれど、未だに慣れないもので、クレアは小さく息を飲むと、ぐっと気を引き締めて席に着いた。
少しの間をおいて、鈴を転がすような愛らしい声が間仕切りの向こう側から聞こえてきた。
「ええっと、もう、はじめてもよろしいかしら」
「――はい! よろしくお願いします」
思わず席を立ちそうになりながら返事をして、クレアは少し驚いた。想像していたよりもずっと若々しい女性の声だ。
これまで受けた面接は、どれも女性使用人のトップである家政婦が相手のもので、職業紹介所に屋敷の女主人が直接面接に訪れるだなんて聞いたこともなかった。
それもあって、間仕切りの向こうにいるのは年季の入った気難しい大奥様だろうと思い込んでいたけれど、声を聞く限り、この伯爵夫人はクレアとそう変わらない年齢なのではないかと思えた。
ほんの少し緊張が和らいだクレアは、一息ついて姿勢を正し、夫人の声に耳を傾けた。
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