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「それにしても、誰に何を届ければいいんですか? 俺の知り合いとか…」
「いや、このホテルに居るんだ」
そう言うと、先輩は内ポケットから白い封筒を取り出した。
「その相手を起こして、これを渡してくれればそれでいい」
同じホテルに居る…それなのに自分で渡しに行かないのは、相当の理由があるのだ。俺はすぐにそう察した。そして、しばらく声を出すこともできなかった。
俺の知る先輩とは似ても似つかない、目の前の男。
自責、赫怒、恐怖、決意…そんな様々な感情が、全て冷たい色にくくられ、その体に取り込まれている。
「…分かりました」
やっとのことでそう答えると、先輩は机の上にルームキーを置いて席を立った。
「今はまだ寝ていると思う。無理だとは思うが、あまり驚かさないように起こしてやってくれ」
そう言って、先輩は俺から目線を外した。
「はい。必ず、届けます」
先輩は、「有り難う」と言って微笑んだ。
その笑顔は、俺の中の何かを壊した。
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