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「失礼します」
ドアを開ける。返事は無い。部屋の中は暗く、冷気が渦巻いていた。
少しずつ歩みを進めながら、辺りを見回す。やがて、目の前に大きなベッドが現れた。指をこすりあわせながら近づいていく。
(寒いな…)
息すら白くなる。もう午後四時を過ぎるというのに、この部屋からはまだ早朝の冷気が逃げきっていない。
ベッドの傍らに立ち止まり、覗き込むと、そこには少年が寝ていた。
少し驚き、ついまじまじと見つめる。他ではなかなか見られない容貌だった。
額にかかる髪は細く、髪と同じ色の睫は長く、睫が触れる白い肌は陶器のようだった。大人になる前の華奢な体は真っ白なシーツにきつくくるまり、まるでこの世が危険に満ちているかのように小さく小さく丸まっていた。そんな少年一人に、キングサイズのベッドは大きすぎる。
ぽっかりと空いた隣りが、妙に寂しげだった。
「君」
そっと手を伸ばし、肩を叩く。二、三度叩くと、その少年は目を覚ました。
「真澄、さん…?」
「違う」
「っ誰だ!」
間近で俺の顔を確かめた少年は、ベッドから跳ね起きた。壁に背中をつけ、仔ライオンのように威嚇している。
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