58人が本棚に入れています
本棚に追加
/91ページ
丸みを帯びたグラスを手にしながら、先輩は、ぽつり、ぽつりと、自分の恋人について愛しげに語った。俺は、それをじっと聞いていた。
少しも酒が飲めなかった若い頃、俺はブランデーを一瓶買った。それはまだ、一杯分だけ減ったまま、棚の中にある。
あれは俺の十字架。淡い想いを磔にして、今も闇の中に在る。
少年は、かすかな声で「出ていって下さい」と言った。俺は黙って部屋を出た。
PM4:34任務終了。
先輩はもうホテルから去った頃だろう。俺はこの後会社で重要な会議がある。少年はあの暗い部屋で暖房もつけず独り。
もう会うこともない人達。
俺の人生の一コマが、静かに幕を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!