SPRING -川村聖夜-

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「…好きだからだよ」  言葉にしたら、悲しくなった。  それは、自分の気持ちの名前に気付いてから何度も味わってきた嫌な感覚だった。  もちろん、こういう感情が変だってことは分かってる。  でも、今こうして春になって、綺麗に桜が咲いて、それを一成さんと見たいって思うのは、そんなに変なことなのか?  両親とか、クラスメートとかより、誰より、一成さんと見たいって思うのは、そんなに変なことなのか? 『初めまして。今日から国語を教えることになった松本一成です』  あの時、少し控えめに笑った顔と、まだ落ち着きの足りない声と、俺とは全然違う体と、彼が持つ全ての雰囲気に、惹かれた。「興味」から「好き」に変わるまで、時間なんて全然必要じゃなかった。  好きなんだ。  年齢も性別も、大人が創り上げた全ての壁を越えて。  あの人の側へと行きたい。
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