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―――――――側に居ることが出来るようになって。彼を恋人と呼べるようになって。
気になっていたことは、この時の彼の顔だった。
強い顔だった。けれど、その影は怯えていた。
小さくため息をつく。
困ったものだ。こんなに愛していて、こんなに近くに居るのに、まだ不安に思っている恋人をどうやって包もう。
俺は時計の箱を強く握りしめると、ゆっくり彼に近づいた。指先でそっと彼の髪に触れる。
外気にさらされていた髪は、ひんやりと冷たかった。
指を顎に降ろしていく。
「智…」
怯える彼の瞳が俺を見上げたのを合図に、唇をおとした。
柔らかな温度に恍惚とした後、静かに離れる。
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