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山都由真ははっと身を竦ませる。それでも俺の言葉は止まらなかった。
「ムジカ? 知らねぇよそんなライブハウス。誰かと勘違いしてんじゃねぇの? 勝手なこと言って、俺に関わらないでくれ!!」
そう叫んで彼女に背を向けた。早歩きの歩調がだんだん駆け足になる。
一刻も早く一人になりたかった。
彼女は追ってはこなかった。
*****
バタンと玄関を閉めて、しんとした家で俺は浅い呼吸を繰り替えした。兄貴は夜遅くにしか帰ってこない。こんなところを見られなくてほっとした。
乱暴に靴を脱いで、自分の部屋へ向かう。適当にカバンを放り出して、ぼすんとベッドに腰掛けた。
閉ざされた押入れが目に入る。そこにある物の姿形を、俺は鮮明に思い浮かべることができた。
思い出したくない。
俺は横になって、目を閉じた。
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