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中学時代の俺は、たぶん教科書を開いている時間より楽譜を見ている時間の方が長かったと思う。
お年玉と小遣いを貯めて買ったベース。憧れのバンドと同じものはさすがに買えなかったけど、楽器屋で弾かせてもらってすぐにこれと決めた。
黒光りする重厚なベース。初めて手にした自分の楽器に、胸を躍らせた。どんな音楽だって奏でていけるんだと思っていた。
楽譜の読み方を勉強して、CDを何度も聞いて、音楽に合わせて弾いて。何度も弦に這わせた左手の指は、だんだん固くなっていった。
一人で弾いてるだけでは飽き足らなくなってくる。ベースだけじゃバンドにはならない。
楽器屋の掲示板には、バンドメンバー募集の張り紙がたくさんあった。高校生のベースを募集していたバンドに、俺は連絡を取った。
募集していたのは高校生だったけど、俺はなんとかメンバーに入れてもらった。
そこからは楽しい日々だった。学校から急いで帰って、ベースを引っ掴んでスタジオへと駆ける。一曲、また一曲と弾けるようになるのが楽しかった。
家にいる時間も、メトロノームに合わせて弾いていた。近所からうるさいと言われないか心配でアンプには繋げなかったけど、ベースをいじってるだけで楽しかったのだ。
だからこそ。
『おまえのベース、気持ち悪い』
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