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はっとした。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。俺はベッドに横たわったまま、目覚まし時計に手を伸ばした。五時三十七分。昼過ぎには帰ってきたから、大分寝ていたようだ。
腹がぐううと鳴った。こんな気分のときでも、腹は減るんだな……。
苦々しく思いながら、俺は身を起こした。
その視界に、押し入れの扉が入る。
実家に置いてくることなどできなかったベースが、その中にはケースに収められたまま横たわっている。
弾き手をなくしたまま。
*****
俺と兄貴の生活はすれ違いだ。深夜に仕事から帰ってくる兄貴を起こさないように準備してから、俺は家を出た。
四月の朝の空気は、まだ少し冷たい。最後にベースを触ったのは秋だった。あのときもこんな空気だったな。随分遠くに来たように感じてしまう。
「ジョージおっはよー!!」
突き飛ばされた。
転びかけた俺はなんとか踏みとどまって、背後を振り返る。顔を見るまでもない。この声、それにこんなことをするやつは、今のところ一人しか知らない。
「またおまえか……」
そこには山都由真が笑顔で立っていた。肩甲骨までの髪はふわりと下ろしていて、背中のリュックに流れている。両手は俺を突き飛ばしたときのパーのままだ。
「おはよー!! いい朝だね。調子はどう?」
「おまえに会うまですっげー元気」
俺はげんなり言う。
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