上司と部下と夫と妻

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「あああああ、藍沢さんっ?!」 要の陰になっていて、藍沢さんがいることにまったく気付かなかった。 どうしよう、恥ずかしくて死ねる……! 「藍沢さん、ありがとう」 藍沢さんがいることに気付いたのに、見せつけるかのようにぎゅうっと私を抱き締め直して、落ち着きを取り戻した要がお礼を言った。 「いいえ、お役に立てたようで、何よりです。あーあ、何か夫婦って不思議なものなんですね。実は私、お見合いで結婚するんですよ。正直、この時代にどうなのって思うんですけど、ほとんど面識のない人で、嫌だったんです。でも、向こうは歩み寄ろうとしてくれてたのを思い出しました。2人を見てて、長年一緒にいても言葉にしないと伝わらないこととか、不安になることがあるって知りました。……私も、ちょっと前向きに結婚と向き合ってみます」 呆れたように溜息を吐きながらも、そう話す藍沢さんは優しい笑顔を浮かべて、給湯室から出て行った。 その後ろ姿を要と抱き合いながら見送って、沈黙が落ちて、ハッと我に返った。 ここ、職場! 要は、鬼上司! 私はその部下の1人!
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