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夕暮れの渡り廊下で1人、窓の外を眺めている。
長い黒髪が茜色に染まり、吐息程度の風力で細く柔らかい真侑の髪は揺らめいていた。
グラウンドから部活の気合いの入った掛け声が聞こえるだけで、周りには誰もいないあの時以来のオイシイシチュエーション。
前回の反省も踏まえ急にがっついたりせず、徐々に距離を詰めてゆっくり頂くとしよう。
そこまで女に飢えてないし、あくまでこれは暇潰しの1つだから。
「まだ帰んないの?」
真侑は驚いた様に俺を見た。
2人だけのこの状態に警戒しているのか、手をぐっと胸の前に握りしめ困惑した表情をしている。
「そんなにビビんなって、何もしないよ。麻耶は帰ったのか聞きたかっただけだからさ」
努めて普通に、借りてた辞書を返しそびれたと辞書を見せる。
(こーゆう時の為に麻耶を使わなきゃ意味ねぇからな)
今にも走り出しそうな雰囲気を、真侑の全身からひしひしと伝わってくる。
「…摩耶は、帰ったよ…」
消え入りそうな声で答える真侑は目を合わそうとしない。
シカトを決め込まれたらどうしようかと思ったが、話はしてくれる様だ。
「そっか、じゃぁコレ麻耶に返しといてくれる?」
少しづつ真侑との距離を縮め、目の前で辞書を差し出す。
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