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少々弱音を吐けば自分に心開いたと勘違いし、コロリと騙されてガードが途端に緩くなる。
男も意外に計算して振る舞っている事に、早く気付いた方が良い。
「さぁ?嫌いな理由なんて考えた事もない。当たり前の事を一々考えたりしないだろ?」
どうして電波でテレビに映像が映るのか、どうして雨は上空から落ちてくるのに当たっても痛くないのか、どうして女の体は柔らかく男と感触が異なるのか。
当たり前に日常に与えられている物に気なんてとられたりしない。
それが普通としてそこにあるだけだ。
余程好奇心旺盛な変わり者でも、人並み外れた天才でもない多数派の凡人の俺には男が嫌いな理由も、俺にとってはそれが当たり前なだけの普通の事なのだ。
「そう、なのかな」
胸の前で握り締めていた手を口元に添え考えている様子の真侑に「そんなもんだろ」と相槌をうつと、真侑はこくりと頷いて俺が差し出していた麻耶の英和辞書を取ろうと手を伸ばしてきた。
その時だった。
「…それでも、麻耶は下心あるよ」
その言葉に俺の中の何かが疼いて、条件反射の如く真侑の細い手首を掴み乱暴に引き寄せていた。
重い辞書のどすんと床に落ちる音と「きゃっ」と言うか細い悲鳴が重なった。
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