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第1話 打ち捨てられた小屋
「はーい、ストップー」
その声と共に、ウッドベースの調子外れの音が『ボォーン』と鳴り響いた。
それを合図にサックスもギターもリズム隊も止まる。
急に手を止められないせいか、しばらく制御できていない音が散らばった。
全員の目線が僕へと向けられる。
「またお前か」という言葉が聞こえてきそうだ。
「あのさ、なんなのお前? 昨日ソロのフレーズ変えろって言ったじゃん」
これから先輩の説教が始まる。
僕がこのジャズバンドにメンバー入りしてから、ほぼ毎日がこんな調子だ。
缶コーヒーを飲みつつ、タバコを2本吸うのに調度良い長さらしい。
休憩時間のように全員がスタジオから出ていき、僕と先輩の二人きりになった。
そんな様子は気にかけないように、話は続いた。
「つうかさ、ソロ以外の部分も何かやってるだろ。オレの楽譜通り吹けって」
自分の譜面台には、先輩が書いたスコアが置かれている。
確かに僕はそれに反したプレイをした。
自分のパート譜にはこっそり別の音符が書かれている。
「あの、何と言うか、こっちのフレーズのほうがしっくりくると言いますか。耳に心地よいと言いますか……」
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