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僕は顔色を窺いながら提案してみた。
「僕は良い場所を知ってるんだけど、良かったらどうかな?」
僕たちは楽器を持って移動し始めた。
道すがら雑談、とはならずに愚痴の言い合いになっている。
「全く、なんなのよアイツ! ちょっと気にくわない音を見つけると『今出した音に根拠はあるのか?』とか煩(うるさ)すぎるのよ!」
「あー、言う言う。本人の演奏は『有名なフレーズ』のツギハギなのにな。それでご満悦なんだからアホすぎるな」
「思い出したらまたムカついてきた! ソウマくん、あんなヤツの言うことなんか気にしたらダメなんだからね!」
2人とも逞しいなぁ。
昨日の僕はというと、途方に暮れるだけで陰口を叩く余裕は無かったよ。
「見て、あそこなんだけど」
土手に着いた僕は、草むらの廃屋を指さした。
昨日と変わらないままそこにある。
正直言って、もう一度あの場所に行ける保証はない。
だから2人を連れてきたのは、半分こじつけだった。
あれが夢だったのか、現実だったのかを確かめたくて仕方がなかったんだ。
「誰かの家……じゃないか。こんだけ荒れてるんだもん」
「屋根があるだけでも助かるよな。さっそく使わせてもらおうぜ」
「うん。じゃあ行こうか」
僕は先導するように小屋へと歩き始めた。
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