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先ほどの細かいビートではなく、ボサノバのようなゆったりとしたリズム。
少女の歌を邪魔しない打音が、心の奥で素直に響いた。
コウイチもコードをゆっくりと鳴らし、メロディに奥行きを生み出そうとしている。
僕は歌のラインから外れた音域を吹いていた。
歌が高音なら低め、低音を歌ったら高めへと、邪魔しないようにしつつ引き立て役に徹した。
曲の調子は最後まで変わらず、ゆったりと余韻を感じながら音を切った。
◆
「すっごーい、この子天才じゃない! こんな歌初めて聞いたわよ!」
「おおお、鳥肌立っちまったよ。感動しながらの演奏って何年振りだろ?」
「エヘヘー、たのしいねぇ。キレイな音、きもちいいねぇ」
この日を境に、僕たちの生活は様変わりした。
夕暮れ時に集まって、心の赴くままに演奏する毎日。
平日だけに止まらず、土日や祝日だって休まずに集まった。
名前すら知らないこの少女によって、僕たちは大きく進化しようとしていた。
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