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「あのさぁ。プロ思考のオレが聞いて、違和感を感じてんの。遊び半分でやってるお前とは違う耳で」
確かに先輩は凄いと思う。
ちょっと聞いただけで「このソロは○○が○○講演だけで演奏したヤツで、これは○○の流れを汲んでてさ」なんて知識が止めどなく披露される。
『好き、嫌い』でしか音楽を語れない僕とは雲泥の差だった。
「一応、他の音の邪魔にならない場面だけでやってますし。これはこれで1つの在り方だと思って……」
「ハッキリ言うぞ。お前には気持ちいいかもしれないけど、あれはミスノート。ただの雑音だから」
「そんな、そんな言い方……」
「もう帰ってくれ。うちのバンドには、輪を乱すヤツなんか要らない」
自分の荷物僕と一緒に、僕はスタジオから追い出されてしまった。
他のメンバーの視線が痛いくらいに突き刺さる。
侮蔑、憐れみ、興味や関心。
色々な感情を向けられたけど、声をかけてくる人は居なかった。
一人で大学の構内を出て、駅へと続く道を歩いていく。
そのまま下宿先のアパートに帰る気にはなれず、脇道をフラフラと彷徨(うろつ)いた。
かと言って、目的があるわけじゃない。
この気持ちを引きずったたまま、部屋に戻りたくないだけだった。
小学生たちのじゃれあう声、道端で談笑する主婦、楽しそうに散歩する犬とその飼い主。
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