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『音を演奏する』という固定観念から抜け出して、『音を介して会話をする』という発想へと変化した。
これも不思議な森や少女のお陰だ。
だから僕たちはあの場所に対して悪感情を一切抱いていない。
むしろ『秘密基地』くらいの無邪気な愛着がある程だ。
「ほーい、到着。移動方法以外は最高なスタジオですよっと」
「土で汚れなきゃ素晴らしいわよっと。ジャージを一々脱がなきゃだし」
そして森へやってきた。
僕たちはすっかり手馴れていた。
最初は楽器のケースを体にぶつけたりしたもんだけど、今は体もケースもスムーズに運べている。
服を汚さないためにも、降りる前にジャージに着替えたりしている。
常連になるとこんな部分にまで気が回るようになる。
「あれ、今日は演奏前に女の子が来てるわね。珍しい」
「ほんとだ。何か変わった事でもあった……の?」
僕たちは声の調子を落としてしまう。
少女の顔が涙でグシャグシャになっていたからだ。
青い目は真っ赤に腫れ上がり、どれほど泣いていたか想像できた。
少女はこちらに気づくと、一直線に走ってきた。
「おにいちゃん、おねえちゃん、たすけて! お花が……お花がかれちゃう!」
「花が枯れる? 一体何があったんだ?!」
僕は両手で小さな肩をつかんだ。
憔悴しきっているのか、目の焦点が合っていない。
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