第7話  心の在り処

1/5
前へ
/39ページ
次へ

第7話  心の在り処

目の前を塞いでも、男に変化は見られなかった。 僕を見ているのかすらもわからない。 兜の隙間は暗く、中の様子を知る事はできない。 「花など、想いなど、夢など、下らん。秩序だ。それさえあれば、人は生き永らえる」 つぶやきながら剣を高々と掲げた。 青い光はゆっくりとこちら側へ侵食を続ける。 冷たい風を伴って。 心の底から凍りつきそうになるほどの冷たさだ。 「早く戻れよ、殺されちまうぞ!」 「ソウマくん! お願いだから戻って!」 こんな超常現象を前にして、僕に何ができるだろう。 無力だと知りながらも見過ごす訳にはいかなかった。 ーーこの花を散らせてはいけない。 理由は無いけど、そんな確信を得ていた。 仲間たちの声を無視して光を押し返そうとした。 サックス用のハードケース。 唯一の道具を盾にするように、光と向き合った。 「貴様も同類か。小娘の同種か。無意味な妄想に取り付かれ、本質を見失う愚か者ども」 見間違いかとも思った。 でも、僕の両目がそれを否定する。 なんの変哲もないサックスが入ったケース。 それが暖色に染まり始めた。 それは見た目通りの温かみを秘めており、敵に立ち向かうように光を放つ。 この中には楽器しかないはずなのに……。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加