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急いで中を改めると、より強い光が辺りを照らした。
金でコーティングされた僕の相棒。
それが今は、無言のまま凶悪な敵と相対している。
ーーお前と一緒なら、助けられるのか?
僕はサックスを本来の姿に戻した。
光の中心がより色濃くなった気がする。
僕は口をつけて、息を送り込んだ。
文字通りそれが息吹となるように。
それに応えるかのような風が吹く。
向かい風だった冷気とは違う、暖かい追い風。
お互いの発する光が衝突する。
それでも相手の方がずっと大きい。
侵食を遅らせる事はできても、押し戻す事ができない。
ーー何か、力はないのか。この場で役立つものはないか。
迷っている間も花は枯れ、石畳が敷かれていく。
モタモタしているゆとりは無かった。
僕は思いつくままにメロディを奏でた。
◆
演奏しながら向き合うことで、状況が見えた。
襲ってきた光の正体は『音』だった。
偉大なる作曲家が、アーティストが生み出した旋律、和音、リズム。
おびただしい程の情報が、僕の体へとぶつけられる。
まるで暴風雨に曝された一本の若木のよう。
自分の姿勢を保つことさえ覚束ない。
「人が心地よく感じるメカニズムは解明されている。なぞれ。貴様ごときが入り込む余地は、有りはしない」
僕はこの言葉を聞いて、初めて理解した。
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