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この楽器の事を聞いてるんだろう。
「これはね、アルトサックスって言うんだよ」
「あーとさっく?」
「ええとね。アルト、サックス」
「あうとせっ……」
それ以上言っちゃいけない!
ある意味僕らの中では鉄板ネタではあるけれど!
君みたいな幼い女の子が口にしていいネタじゃないよ?
「お歌ならね、わたしもじょうずだよ。聞いてくれる?」
「ええと、僕はそろそろ帰ろうかなと思うんだけど」
僕の言葉を待たずに、女の子は歌い始めてしまった。
聞かずに帰るのは可哀想だよね。
でもここは人の家の敷地みたいだから、早く出て行きたいんだけどなぁ。
◆
女の子の歌は想像以上の歌唱力だった。
正確なメロディ、豊かな声量、そしてノビのある歌い方は、子供のものとは到底思えない。
声質も透明感があって、僕の逸る心をあっという間に鎮めてしまった。
それより、こんな歌い手に出会えるなんて運が良い。
僕は慌ててサックスで参加した。
メロディの隙間を埋めるように、時おり歌にちょっかいを出すように。
構成自体は単純な曲だから、即興でも問題なかった。
女の子は驚いたように目を大きくして、それから笑顔になって歌い続けた。
誰も居ない森の中で響き渡る二重奏。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
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