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01:『始まらない物語』の始まり≫≫
それは心地よい春の日射しの差し込む午後だった。
深いーーうねる海よりもっともっと深い、そんな微睡みの中から私は浮上する。なぜ午後だとわかったのかは何となくだ。カーテンの隙間からふくらはぎに当たっている陽の光はいくら春といえども午前中のそれではないーーくらいの。問題はなぜ今が午後なのかということである。
私は高校二年生だ。なのに目覚めたのが午後だということは今日が日曜だからか春休みだからか、そのどちらかでしかない。というより、そうでなければ困ったことになる。とても。
「麗美! いつまで寝てんの。もうお昼よ!」
掃除機の音と共にお母さんの声が近付いてくる。よかった、やっぱり日曜なのだ。ほっとしながらミッフィーの形をした目覚まし時計に手をのばすと頭がズキリと痛んだ。私は眉間に皺を寄せる。まるで二日酔いみたいだ。もっともお酒なんか飲んだことないのだけれども。
「あんた蘭ちゃんと約束があるとか言ってなかった?」
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