第4話 今日もチャイムが鳴る

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…ピンポンピンポンピンポン… チャイムが来客を知らせる。 「いらっしゃいませ」 私は声をかけた。 30代くらいの女性。荷物は小さなバックのみ。 顔色があまり良くない。 目の下の隈が痛々しい感じだ。 ここは、 この村唯一の『コンビニエンスストア』 『ディスティニー』である。 夫婦がひっそりと経営している。 私はここでアルバイトを始めて10日程経つ。 ここから、約200m先は断崖絶壁の自殺の名所。 自殺を考えた人が最後に寄り易い場所。 店主は言った。 ここは様々な事情を抱え、人生の終焉を 考えた人が足を踏み入れ易い。 だからDestiny《ディスティニー》~運命~ その人にとって良い未来を暗示する名前に したんだ、と。 だから、お客様には真心と誠意を持って 笑顔で話しかけるんだ、と。 若い頃散々社会に迷惑をかけた、 その罪滅ぼしをしてるんだ、と笑った。 奥様は、数年前…自殺を考えてこの先の 断崖絶壁を目指し、 引き寄せられるように、この店に入ったそう。 「当店は出汁が効いたおでん、 サクサクのフライドポテトがお勧めですよ」 と私はお客様にお声をおかけしてみた。 何故か涙ぐむお客様。 おでんを山盛りに盛り始める店主。 奥様はペットボトルの緑茶を2本レジに 持ち寄る。 「おでんを2個ずつ。 卵、大根、蒟蒻、ハンペン、つくね…」 と読み上げ、私にレジを打たせる。 ポケットからお金を出し、清算を済ませた。 そして山盛りおでんとペットボトルの緑茶を2本、 トレイに乗せ 「さ、いきましょう」 とそのお客様を促した。 …約2時間後、先ほどのお客様が バッグルームから出てきた。 見違えるように、表情が明るくなっていた。 間違いなく、生への意欲に満ちている。 お客様は、店内で板チョコレートを一つと ペットボトルのジャスミン茶。 そしてチョコレート系クッキーと プリンを3つ、ペットボトルの麦茶を3本、 購入した。 袋詰めしようとしたら、 「この麦茶とプリンとクッキーは、 皆さんで召し上がってください」 とお客様は言った。そして 「あなたに最初に笑顔で言われた 『いらっしゃいませ』とおでんとフライドポテト のお勧めに、癒されました。 有り難う。もう一度、頑張ってみます」 と女性は笑顔を見せた。 店主と奥様に深々と頭を下げ、 去って行く。 その足取りは意志を持ち、力強かった。 「有り難うございました」 見送る私に、涙が溢れた。
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