1章

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「沖田さんと出掛けたんじゃなかったの?」 「えっ? うわっ……吉田じゃないですか」 まさかの相席になったのは吉田で。春の姿はないから多分一人なのだろう。 濃いグレーの着物は割と似合っていて、店内の女の人の視線は吉田に注がれている。 「色々あって別行動してるんです」 「へぇ……まあ雪ちゃんがいて助かった。君も曲がりなりにも女だから、一緒にいれば鬱陶しい女に声掛けられなくて済むよ」 そう言うと私の手からひょいとメニューを取り上げると、黙ってジーッとご飯を選び始める。 私だってまだ決めてないのに、なんて思いながらむくれていると”はい”と返された。 「好きなもん食べなよ。これくらいなら奢ってあげるから」 「えっ……」 意外。割と優しいところあるんだ。 「夫が無職なんて可哀想だからね」 前言撤回。やっぱり口の悪い嫌な奴だ。 はははと笑う吉田にイラッとしながらも、お腹は空いているものだからメニューに目がいってしまう。 様々な料理名が並んでいるけど、基本的には煮物系が多い。 「決めました」 店員さんを呼んで、協調性のない私達は同時に口を開く。 「「松の寿司を一つ」」 「はいよ! 松二つね!」 店員さんが去っていく。お互いに顔を見合わせるけれど、言葉が出てこなかった。
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