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「沖田さんと出掛けたんじゃなかったの?」
「えっ? うわっ……吉田じゃないですか」
まさかの相席になったのは吉田で。春の姿はないから多分一人なのだろう。
濃いグレーの着物は割と似合っていて、店内の女の人の視線は吉田に注がれている。
「色々あって別行動してるんです」
「へぇ……まあ雪ちゃんがいて助かった。君も曲がりなりにも女だから、一緒にいれば鬱陶しい女に声掛けられなくて済むよ」
そう言うと私の手からひょいとメニューを取り上げると、黙ってジーッとご飯を選び始める。
私だってまだ決めてないのに、なんて思いながらむくれていると”はい”と返された。
「好きなもん食べなよ。これくらいなら奢ってあげるから」
「えっ……」
意外。割と優しいところあるんだ。
「夫が無職なんて可哀想だからね」
前言撤回。やっぱり口の悪い嫌な奴だ。
はははと笑う吉田にイラッとしながらも、お腹は空いているものだからメニューに目がいってしまう。
様々な料理名が並んでいるけど、基本的には煮物系が多い。
「決めました」
店員さんを呼んで、協調性のない私達は同時に口を開く。
「「松の寿司を一つ」」
「はいよ! 松二つね!」
店員さんが去っていく。お互いに顔を見合わせるけれど、言葉が出てこなかった。
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