甘い月花《げっか》

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 耳まで真っ赤に染めて、リトが大きな緑の瞳でユリウスを見つめる。きつく抱きしめてしまいたい衝動を抑えるのが苦しい。  ジゼルが到着を告げながら全員を屋敷の庭先へと運ぶと、リトはユリウスの襟元をキュッと掴んだ。 「親にさえ捨てられちゃったあたしを、欲しいって言ってくれた人はあなたが初めて」  リトを抱えたまま柔らかな庭の草を踏むと、スッとジゼルが彼の中へと姿を消していく。 「だから言ってるじゃない。あたしもユーリが好き。お嫁さんに……なる」  まるで怒っているかのように自分を見つめる潤んだ瞳を、ユリウスは静かに見返した。 「だから私も言っているだろう。お前のそれは気の迷いだ」  そう答え、中庭を奥屋敷に向かって歩き始める。リトの手から飛び降りたポーリンがその後を続き、耳に届くのは低木で囲まれた小道を歩く音だけ。 「意味がわかんない……! なによ気の迷いって。もしかしてお嫁さんはもう他の人に決まってるの?」 「違う。ここのところ執務室に籠っていたのは、お前を正式に妻にする為の諸手続きの為でもあった。だがお前の気持ちが気の迷いではないというなら、それも白紙だ」  一気にそこまでまくし立てると、リトの口が思い切りへの字になった。 「わかんないったら! あたしが好きって言ったら好きなのーー!」
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