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アナウンサーの軽口に会場がまた笑う。そこで元々短気で直情型のリトが、ついにブチ切れた。
──その頃。
観客席の中央に腰掛けていた若者の輪郭が、陽炎のようにユラリと歪んだ。
そしてそれは、すぐに元のはっきりとした姿に定まる。
『あら……退屈だから先に帰ると……。せっかく蜃気楼で代わりを映しておいたのに、どうなさったの』
若者の聖護獣が、彼の傍らでおっとりと首を傾げた。
「いや。なにやら面白そうなものが見れそうなので戻ってきた」
『……気まぐれだこと』
薄青の袖で口元を覆い、上品に微笑む聖護獣とその宿主。
二人が揃って闘技場に視線を移すと、そこでは受験者の娘がひとり、拳を握りしめている。
「──ちょっとアトラ! あんたがグズグズしてるからバカにされるんじゃない。さっさと出てこないと、寝てる間に体中の毛という毛をむしってやるぅーっ!」
闘技場のど真ん中でリトが吠えた。
『お前……! それはこの前、寝ぼけてホントにやったじゃねえか。そんなの脅しになるか!』
「いいから出なさいってば! 敵に後ろを見せる気? そんなのあたしはあんたから教わった覚えはないわっ」
『あああ、うるさい! わかったから騒ぐな! ……チッ』
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