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ガオンッと熱い風と共に、リトの背中から具現化したアトラが飛び出した。
太い眉、金色の瞳と燃えるような赤い髪。臙脂のマントを翻し、観客席を睨みつける様は屈強な戦士の如く。
『でもまあ少しだけ……心躍る』
不敵に笑う精悍な顔立ちは、たとえ敵であってもひと時見惚れるほど。
これほどまでに人と変わらぬ姿は、その聖獣の力が強大である証でもある。
これがリトの聖護獣アトラ。
彼が姿を現した途端、会場の笑いがピタリと止んだ。
「……ほらね。アトラを見てバカにする人なんていないわ。あんたはやっぱり、この世で一番強くてカッコいい聖護獣よ」
リトが誇らしげに笑う。
アトラは何よりこの笑顔に弱い。
そんな自分に腹が立つと常々こぼしてはいるが、それ以上に腹立たしいのはその事をリト自身も知っている事。
『……うるせえよ、バーカ』
アトラが苦笑いを返すと、水を打ったように静かだった会場が、次第にザワザワと揺れはじめた。
『……アトラじゃないか?』
「伝説の火猿アトラ? まさか……」
『アトラ様の宿主があんな小娘? 何かの間違いじゃ……』
リトが目を丸くして、周囲の観客席を仰ぎ見る。
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