花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

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「な、なによ。みんなあんたの事知ってるみたい」 『だから人の多く集まる都は嫌だったんだ……。まあ仕方がない』  アトラは観客席をひと睨みして大きく息を吸い込み、周囲にガアッと炎を吐き出した。 『(われ)は炎を司る聖猿獣(せいえんじゅう)、名はアトラ=モリス! そして……』  リトの前に片膝をつき、アトラが(うやうや)しく頭を垂れる。観客が息を飲む中、その背中に彼女は悠然と手のひらを置いた。 『この娘が我が主、リトラ=ルナティアだ! これから俺達は試験官をぶっ飛ばす。てめえら、よく観とけよ!』  その瞬間、観客席から嵐のような歓声が沸き起こった。 『アトラ=モリス! 本物だあっ』    「火猿アトラ! すでに転生していたとは……!」 『きゃーーっ! アトラ様よー!!』  いつの間にか観客席のあちこちで聖護獣達も姿を現し、熱狂的にアトラの名を口にしている。 「やぁね、あんた前世でいったい何をやらかしたのよ。やけに有名みたいじゃない」 『別に。ちょっと元気が良かっただけだ。……さあ、さっさと片付けるぞリト。やるからには負ける気はないからな』  アトラがマントを肩に払った、その時。 『……アトラ』  突然、凜と澄んだ声が風と共に闘技場を渡った。
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