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「待て、アトラ=モリス」
さっきとは別人のような威厳のある声色で、ユリウスが呼び止めた。
「お前はこの娘に忠誠を誓った者だろう。この娘の意志に反して行動はできない。……娘よ、お前はこの試練を受けずして帰るのか」
「まさか。シオン公爵って事は、この国の元首で聖警隊のトップ。あなたに勝てば、かなり箔のつく合格よね? ……全力でいく!」
リトは腰のホルダーに手を突っ込み、愛用の短剣を引き抜く。その目を不敵に、爛々と輝かせて。
「ほう、そのダガーは珍しい……ジャマダハルか。手で握ると拳から刃が突き出す形になる。力の弱い女でも効果的だ、考えたな」
「アトラがあつらえてくれたの。切れ味はこれから証明してあげる」
『リ、リト、頼むからちょっと待っ……』
そこへジゼルがすれ違いざま、アトラの耳元に囁いた。
『またわたくしから逃げるのね』
『……なんだと?』
一瞬にしてアトラの金の目が燃え上がり、今まで避けていたジゼルの瞳に視線を合わせる。
『ジゼル、本当にいいのか。わかっているとは思うが、俺は手加減なんか出来ないタチだ』
『もちろん。わたくしも今はシオン公爵の聖護獣。手加減など無用です』
『……後悔するな……!』
アトラから熱い気が噴き上がり、同時にジゼルからも強い風の渦が巻き起こった。
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