花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

12/50
前へ
/309ページ
次へ
「待て、アトラ=モリス」  さっきとは別人のような威厳のある声色で、ユリウスが呼び止めた。 「お前はこの娘に忠誠を誓った者だろう。この娘の意志に反して行動はできない。……娘よ、お前はこの試練を受けずして帰るのか」 「まさか。シオン公爵って事は、この国の元首(ドージェ)で聖警隊のトップ。あなたに勝てば、かなり箔のつく合格よね? ……全力でいく!」  リトは腰のホルダーに手を突っ込み、愛用の短剣(ダガー)を引き抜く。その目を不敵に、爛々と輝かせて。 「ほう、そのダガーは珍しい……ジャマダハルか。手で握ると拳から刃が突き出す形になる。力の弱い女でも効果的だ、考えたな」 「アトラがあつらえてくれたの。切れ味はこれから証明してあげる」 『リ、リト、頼むからちょっと待っ……』  そこへジゼルがすれ違いざま、アトラの耳元に囁いた。 『またわたくしから逃げるのね』 『……なんだと?』  一瞬にしてアトラの金の目が燃え上がり、今まで避けていたジゼルの瞳に視線を合わせる。 『ジゼル、本当にいいのか。わかっているとは思うが、俺は手加減なんか出来ないタチだ』 『もちろん。わたくしも今はシオン公爵の聖護獣。手加減など無用です』 『……後悔するな……!』  アトラから熱い気が噴き上がり、同時にジゼルからも強い風の渦が巻き起こった。
/309ページ

最初のコメントを投稿しよう!

692人が本棚に入れています
本棚に追加