花嫁は焔《ほのお》の護《まも》り姫

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 ユリウスが眉をひそめると、リトはふと窓辺に目を移す。 「ねえ、アトラは……? あたしの中にいないけど」 「お前の容体が大事(だいじ)ない事がわかると、どこかへ出て行った……ジゼルも」  リトと同じように、ユリウスも窓で揺れるカーテンを見つめた。 「風が出てきた。ジゼルがどこかで心を揺らしているのだろう」    風の聖獣ジゼルの心は今ゆるやかにたなびいて、夜のしじまを吹き抜けていく。 「……アトラと一緒なのかな」 「おそらく。だが私たちはお互い、必要以上の事には干渉しないようにしている。お前たちは違うようだが。とても仲が良さそうだ」 「だって、あたしはアトラに育てられたようなものだし……。彼が宿ったのは、あたしが赤ちゃんの時だったの」  だから物心ついた時から身体の中にアトラがいるのは当たり前で、それ以外の自分をリトは知らない。 「戦い方も読み書きも、人の心の在り方も、何もかもアトラが教えてくれた。でも彼はあんな田舎で、たった一人の女の子の為だけに一生を終える聖護獣じゃないわ」  アトラ本人には言えなかった、都に出てきた本当の理由。それが堰を切ったように溢れてくる。 「アトラは強くてなんでも知ってて。あたしを大事にしてくれるけど、時々一人で山の向こうを見てるの。遠いどこか……それは都なのか過去なのか。あたし、ずっと彼を村から連れ出さなきゃって思ってた……」
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