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「なるほど……確かにそうだがな」
確信めいた口調のユリウスの瞳を、リトはじっと覗き込んだ。
「ねえ、アトラの事みんな知ってたよね。あいつそんなに有名なの?」
「火猿アトラ。この国の歴史の中で幾度も登場する、軍神と称えられた聖獣だ」
予想を遥かに上回る事実にリトが思わず目を見張る。
「直近では百年ほど前か。天候を操り、国に大飢饉を引き起こした堕聖獣軍勢の反乱を食い止めた。他にも大きな内乱の際には必ず名がのぼる。知らないお前の方が珍しい」
「あ……あたし、ろくに学校行ってなくて。孤児院で院長先生を手伝って子供たちのお世話してたし」
知識は全てアトラから。おそらく彼が教えていない事は何一つ知らないだろう。
「女を宿主に持つのも珍しいんだ。かつての宿主はいずれも勇猛果敢な戦士だったと聞いている」
「ふぅん……。女の宿主じゃ活躍出来ないと思ったのかな。だから比較的平和な田舎から出ようとしないで」
「……疲れたのかもしれん」
「え?」
リトが顔を上げると、それまで硬い表情だったユリウスの顔がふと和らいだ。
「いいじゃないか、今は晴れて聖警隊の身となったんだ。これから活躍すればいい」
「あ、そうだった。それじゃあ……!」
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