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「あ、ごめんなさい……! 嬉しくてつい……、ユーリは公爵さまだった」
腕を緩めて目の前の涼し気なブルーグレーの瞳を見返すと、怒っている様子はない。けれどその眼は何か言いたげで、戸惑ってしまう。
これまで周りに身分のある人間など皆無だったので接し方がわからない。とはいえユリウスは公爵であり、若くともこの国で一番身分の高い人なのだ。
(抱きついちゃった……失礼だったかな。アトラじゃないんだから気を付けなきゃ……)
急に気恥ずかしくなって、照れ隠しにエヘヘと小さく舌を出した時──、ふいに背中を引き寄せられ、リトの舌はユリウスの唇に食べられた。
(……っ!)
咄嗟に舌は口の中に引っ込めたが、重なった唇はそのまま。
「はは、逃げられてしまった。私もつい、だ。綺麗なピンク色で美味しそうだった」
笑いながら唇が離れていっても、リトは固まったまま瞬きもせずにユリウスを見つめた。
「今……キスした?」
「おかしな質問だな。たった今の事も覚えていられないのか。医者に診てもらうか?」
悪戯な笑みが、目の前で楽しそうに揺れている。
「……なんで?」
「なんで、とは?」
「だから……なんでキスするの?」
「自分の花嫁候補に触れるのに、理由が必要か?」
「……は?」
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