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思考が追いつかない。
ユリウスの言葉はまるで見知らぬ土地の言語のように、リトの理解の範疇を越えている。
「ああ、まだ言ってなかったか。お前は今日から私の花嫁候補の一人となった。護衛任務と同様、その任も努めてもらう」
花嫁? 努める?
呆然としながらも、その言葉だけは脳に沁みてきた。そしてドキドキと心臓が早鐘を打ち始める。
「え……え? なにそれ、あたしがユーリの……!?」
スッと彼が耳元に唇を寄せ、低く囁いた。
「故郷に恋人がいるなら早々に手紙を書くことだ。『もう戻らない』とな」
「こ、恋人なんかいないけど……でも!」
「ではなんの不都合がある」
「だから……っ! し、身上書見たんでしょ? あたし孤児だし学校行ってないし、公爵のお嫁さんなんて誰も認めないよ!」
リトが必死で訴えても、ユリウスは不思議そうな面持ちで首を傾げるだけ。
「この私が決めた事に対して、他の誰の認可が必要なんだ?」
そうだった、ユーリが一番エライ人……と思い直してはみたものの『そうですか』と頷けるものでもない。
(どうして……? 花嫁って……本当にあたしユーリの、このシオン公国公爵のお嫁さんになるの!?)
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