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向かい風がユリウスの銀の髪をなぶる。
幼い頃から、幾度この風を浴びて空を駆けたことだろう。
「……ジゼル、アトラは?」
『だいぶ荒れていたけど今は落ち着いて……眠ったわ。大丈夫、アトラは一度眠ったらなかなか起きないのよ』
「こちらも同じだ。念の為、眠り薬も用意しておいたが必要なかった。あの二人、そんなところまで似ているのか」
ユリウスとジゼルが顔を見合わせて笑う。
やがて子爵家の高い垣根を越え、静かに別棟の庭に降り立った。
初めに目に入ったのは、サンルームの傍にある箱のような小屋。
今は全ての窓と暗幕が開け放たれ、その中で月の光を吸って青白く輝くジオラルの花が可憐に咲き誇っている。
「ジゼル。今のうちに言っておきたい」
見上げたジゼルは、迷いのない満ち足りた表情をしていた。それは今のユリウスの瞳と同じ色。
「お前は私の、良き母であり姉であり友であり、素晴らしい師だった。お前でなければ私と心を一つには出来なかっただろう。……ありがとう」
ユリウスを中心にジゼルが螺旋を描き、その目の前で微笑む。
『私こそ……あなたが宿主で良かった。これで私は今度もアトラを守る事ができる。……ありがとう、ユリウス』
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